神沼克伊『あしたの地震学』

地震学の歴史、明治期から最近までの地震学を形作ってきた考え方を詳細に記しており、とても面白かった。とくに、専門家が、一般人の関心が高い分野についてのコメントをする際の姿勢については、まさにいま進行中の新型コロナウイルスについての専門家の発言のあり方にも通じるものがある。

もう一つ、地震学の泰斗の一人、大森房吉に関するコメントが興味を引いた。

  • p38「大森は消火にも必要なので水道の整備を提案していた。」
  • p59「火災に備えて東京市の水道改良について義務を果たしたと自分を慰めている」

大森房吉は関東大震災のあとに亡くなったことからして、大森が水道改良に力を尽くしたのは、東京帝国大学教授中島鋭治が東京市の水道整備に力を発揮していただ時期と重なるように思う。少し調べてみると、「東京に地震が発生すれば、水道管の被害によって消防活動がうまくいかず大火災による被害を被ると当局にその対策を迫っていた」(目黒(2003)大正関東地震から80年を経て、地震工学研究の最先端)ということで、水道の配水管の改良のことと推定できる。

少し疑問もある。サブタイトルに「抗震力」へ、とあるのだが、抗震力について書いてあるのは最後の数ページ。その考えに至った過程は説明してあるのだが、ちょっと消化不良気味。また、今村明恒の姿勢を高く評価しているのだが、ちょっと筆が走っているように感じた。今村の地震予知はある意味当たっているが、それは偶然なのではないか?彼に続く学者の覚悟が足りない事を批判していることと矛盾しているように思う。